グーグルのHTCスマートフォン部門買収、その2つの理由
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GoogleがHTCのスマートフォン開発の一部を買収することの解説。ここでは明確に2つの理由としている。
以前の私のコメントは → http://bit.ly/2fnKzje
まずは、HTCの救済。もう1つがPixelへの注力。
Android端末は言うまでもなくAndroid OSであり、Googleがデザインから機能まですべての決定権を持っている。しかし、実際には各端末メーカーが差別化のために、さまざまなカスタマイズを施し、それによりAndroid本来の機能が損なわれることもある。シェルと呼ばれるホーム画面でさえ変更される。Windows搭載パソコンを買うと、さまざまなアプリがインストールされており、それを含めてパソコンの体験が提供されているのと同じく、スマホも各社がハードウェアだけではなく、搭載ソフトウェアでも差別化を図る。これがGoogleが考えるベストなスマホ体験とは戦略的に異なることがあるのだ。
Pixelはそれを打開するために開発された。PixelはGoogleが考えるベストなスマホ体験を実現するためのハイエンド機種であり、フラグシップモデルだ。これでAppleに対抗し、さらにはAndroid陣営では盟友でもあるSamsungと対抗するのだ。このPixelの供給元としてのHTCを失うことはリスクが大きかったので、今回はあえてその開発陣を自社に取り込んだということだ。
MicrosoftもSurfaceを自社から開発するなど、一時のパソコン的な事業展開、すなわち水平分業からの揺り戻しが今は来ている。ユーザー体験を最善のものとするには、ハードウェアとソフトウェアの一体化が再び始まり、その上でのアプリケーションの提供にも制約をかけるようになる。AppleがiOSの上でのアプリ開発に制約をかける(一時は日本語入力などのIMEと呼ばれるものが作れなかったり、未だに真のブラウザは開発できない)のもそのためだろう。GoogleがChromebookやAndroid端末を自社開発するのも同じ理由だ。
記事が書く、HTCのスマホ部門の今後についても同意する。Pixel開発者たちはおそらくは社内でも優秀な人間たちだろうと思う。彼らが離れた後に、スマホ事業を継続していくのは難しいだろうし、経営状況を考えると、VRなど他事業にシフト行くのが懸命だろう。Googleの提供するandroidをOSとする端末は、グローバルでは廉価モデルでは存在感を示し、結果的にApple iPhoneのiOS端末を大きく上回るシェアを持っている(androidの70%強に対してiOSは20%弱)。これはiPhone王国である日本では意外に思う人もいるだろう(ちなみに日本ではiOSが70%弱)。
androidの課題はグローバルではAppleがiPhoneで押さえる高価格端末市場(=高所得者市場)を押さえることだ。HTCはpixelでこのマーケットを狙っており、今回の買収は、ここでハードウエア、ソフトウエア、AIを垂直統合することによって、Googleとして一貫したユーザーエクスペリエンスを提供することで、高所得者層におけるandroidシェアを高めることを企図しているのではないかとの見立ては的を射てると思う。
余談だが、私がソフトバンクのiPhone事業責任者だった7年前、孫社長が実はiPhone以外にも熱を入れていた端末メーカーがあり、それがHTCだった。日本メーカーを含め、他のメーカーとの取引をやめて、AppleとHTCに集中すると言いだした。HTCが端末の感性品質、UXともに他を抜きん出ているというのがその理由だったが、その時はちょっとした騒ぎだった(のちの経緯で分かるとおり、それは実現しなかったが)。今回の買収は、スマートフォン草創期のそんな個人的なエピソードを思いおこさせてくれた(笑)。
追記:なぜ日本ではここまでiPhoneが普及するに至ったか、というコメントがあったので、元担当として私個人の仮説をご提示します。一つは導入期のソフトバンクの価格戦略(料金含む)にあります。キャリアを横断してみても、iPhoneはスマホで最も安い端末でした。私の時代、ソフトバンクは唯一のiPhone取扱キャリアでしたが、iPhone4時点で既にソフトバンクの販売台数(ガラケー含む)の6割を超えてました。そして、二点目はAppleの垂直統合によるUXです。UXというのはユーザーをロックインする要素として極めて重要(ユーザーにとってのスイッチングコストが高くなるため)で、日本のスマホ市場草創期にアーリーマジョリティまでを安さもフックに一気に制することが出来たことで、みんなiPhoneという事態を作り出したと考えます。Netflixがビッグデータをドラマ制作に活用したように、Googleのもつビッグデータが端末開発に活かされたら、どんな端末が生まれてくるのか。久しぶりにワクワクする話題です。