【池内恵】中東政治の軸はロシアとトルコ、米国の覇権は希薄化
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注目のコメント
年頭の中東見通しがアップされています。媒体・読者の性質を考えて、かなり基本的なところから満遍なく、と試みました。いっぺん初歩から頭を整理してみるのもいいかと思いました。ここ数年で、中東は随分大きく変わりましたね・・・
軍事的な観点からのコメントがないので、ちょっと違った見方からひとつ。
アメリカのパワーの源泉は、なんといっても圧倒的な軍事力。
湾岸戦争、イラク戦争などを見てもわかるように、なかんずく、他の追随を許さない空軍力こそがその覇権の源になってきました。
しかし今回の中東の動乱でその一端が崩れつつあります。
そのきっかけの一つが、池内先生が触れているロシアの最新鋭対空ミサイルS400、およびその一世代前のS300です。(ここに着目されているのはさすがですね)
恐らく現在実戦配備されている最強のミサイルであるS400は、射程400キロ、マッハ6.2、同時に6つの目標を攻撃できるというパトリオットを遥かに上回る性能を有し、現状のアメリカのすべての戦闘機、巡航ミサイル、弾道ミサイルはおろか、ステルス戦闘機さえ打ち落とす能力があります。
つまりこのミサイルさえあれば、アメリカから一方的に空爆を受けることはなくなり、アメリカの軍事力を恐れる必要が大きく減少するのです。
そうなればアメリカの軍事的ヘゲモニーは大幅に低下することになります。
ロシアはトルコによる戦闘機撃墜事件のあと、真っ先にシリアにS400を配備しました。これによってトルコの戦闘機は身動きが取れなくなり、その威力を見せつけました。
ロシアはすでにイランやシリアに旧型のS300(それでもアメリカのパトリオットに相当)を供与していますが、更に最新型のS400をイランに供与することを計画しています。
更に、こともあろうにアメリカの同盟国であるトルコやサウジアラビア、インドへの供与が検討されているのです。
つまりこれらの国はロシアの防空システムの傘に入ることになり、同時にアメリカの軍事的影響力が大きくそがれることを意味します。
中東におけるアメリカの覇権の希薄化は、外交上の失敗のみならず、軍事的ヘゲモニーの低下、なかんずく絶対的な力を持っていた空軍力が無効化されつつあることがその一端だともいえるのです。
現実に続く戦争を紐解くには、こうした軍事的なパワーバランスの変化が政治にも大きな影響を与えていることを無視することはできないでしょう。ロシアの中東関与ですが、原油の高値誘導を狙っている、覇権を劇場的に演出して国内求心力にしたい、という2つの理由しか見えないんです。後者は経済の悪化が進めば帳消しですし、シェール時代においては前者には限界があります。そう考えると、過大評価もできないのでは?